なぜ日本は人手不足なのでしょうか?
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はじめに:深刻化する人手不足、その現状と私たちの課題
近年、私たちの日常生活やビジネスの現場で「人手不足」という言葉を耳にする機会がますます増えました。コンビニエンスストアの深夜営業短縮、飲食店の定休日増加、病院での待ち時間の長期化、建設現場の工期遅延など、その影響は枚挙にいとまがありません。
なぜ、これほどまでに日本は人手不足に陥っているのでしょうか?単なる「人がいない」という表面的な問題にとどまらず、その背景には私たちの社会構造、経済状況、そして個人のキャリアに対する意識の変化が複雑に絡み合っています。本日は、この「人手不足」という現代日本が抱える喫緊の課題について、私のこれまでのキャリアコンサルティングの経験と知見に基づき、多角的に考察していきたいと思います。
日本の人手不足の根源:少子高齢化という避けられない現実
人手不足の最も根本的な原因は、紛れもなく少子高齢化の急速な進行です。
日本の人手不足の主要因は、生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)の減少と、高齢化の進展による労働力供給の構造的な変化です。
日本の生産年齢人口(15歳~64歳)は、1995年の約8,700万人をピークに減少の一途をたどり、2023年10月時点では約7,395万人まで減少しています。この間、約1,300万人もの労働力の中核を担う世代が減少したことになります。一方で、65歳以上の高齢者人口は増加し続け、総人口に占める高齢化率は2023年時点で29.1%と過去最高を記録しており、2040年には34.8%、2065年には38.4%に達すると推計されています。これは、労働力供給が構造的に減少していることを意味し、特に若い世代の労働力が大幅に不足している現状を生み出しています。
かつては多くの若者で賑わっていた製造業の工場や、サービス業の店舗では、募集をかけても応募者が集まらず、定員割れや営業時間短縮を余儀なくされています。特に、介護や医療といったエッセンシャルワーカーの分野では、高齢化の進展に伴い需要が増大する一方で、それを支える若年層の供給が追いつかず、深刻な人手不足に陥っています。介護施設の求人倍率は非常に高く、人材確保が喫緊の課題となっています。
人手不足を加速させる複合的な要因
少子高齢化が根本的な原因であることは間違いありませんが、その他にも様々な要因が複雑に絡み合い、人手不足を加速させています。
少子高齢化に加え、労働市場のミスマッチ、労働者の価値観の変化、そして企業の旧態依然とした労働慣行が、人手不足をさらに深刻化させています。
- 労働市場のミスマッチ
- 産業構造の変化と人材ニーズのギャップ: サービス産業化が進む一方で、製造業や建設業など人手が必要な現場では依然として労働力が不足しています。また、ITやAIといった新しい分野での人材ニーズが高まる一方、それに対応できるスキルを持つ人材が十分に育っていない現状があります。
- 地域間の偏在: 地方では人口流出と高齢化が特に顕著であり、都心部に比べて人手不足が深刻化しています。福岡市も活気ある都市ではありますが、周辺地域や特定の産業では人材確保に苦慮している企業も少なくありません。
- 職種間の偏り: いわゆる「きつい・汚い・危険」とされる3K職種や、賃金水準が低いとされる職種では、慢性的に人手が不足しています。
- 労働者の価値観の変化
- ワークライフバランス重視: かつてのように長時間労働をいとわない働き方から、個人の生活や余暇を重視する「ワークライフバランス」への意識が高まっています。これにより、過重労働が常態化している職場や、柔軟な働き方ができない企業は敬遠されがちです。
- キャリアの多様化と自己実現: 終身雇用制度の崩壊に伴い、一つの企業に長く勤めることよりも、自身のスキルアップやキャリアパスを重視し、より良い条件や成長機会を求めて転職を厭わない人が増えています。
- 賃金に対する意識: 物価上昇が続く中で、自身の労働に対する適正な賃金を求める声が高まっています。賃上げが伴わない人手不足は、労働者のモチベーション低下にもつながりかねません。
- 企業の旧態依然とした労働慣行と雇用戦略
- DX・省力化の遅れ: 人手不足を解消するためには、デジタル技術の導入による業務効率化や省力化が不可欠ですが、多くの中小企業ではその投資や導入が遅れています。
- 女性・高齢者・外国人材の活用不足: 潜在的な労働力として期待される女性の社会進出や、高齢者の再雇用、外国人材の受け入れにおいて、まだまだ制度面や意識面での課題が多く残されています。特に女性のキャリア継続を阻む育児・介護との両立支援や、外国人材が働きやすい環境整備は急務です。
- 人材育成への投資不足: 新しい技術や知識が求められる時代において、企業が従業員のスキルアップやリスキリングへの投資を十分に行っていないケースが見受けられます。
私がキャリアコンサルティングで出会う方の中には、「長時間労働が常態化していて、体力的にも精神的にも限界を感じている」「今の会社ではスキルアップの機会がなく、将来に不安を感じる」といった理由で転職を希望する方が多くいらっしゃいます。また、ある企業の人事担当者からは「人手が足りないのはわかっているが、IT導入の費用や外国人材のマネジメントノウハウがなく、どうすれば良いか分からない」といった相談も寄せられています。
人手不足が社会にもたらす影響と今後の展望
人手不足は、個々の企業の問題にとどまらず、社会全体に多大な影響を及ぼします。
人手不足は、経済成長の鈍化、社会保障制度の維持困難、そしてサービスの質の低下といった社会全体の課題を引き起こします。
- 経済成長の足かせ: 労働力不足は企業の生産性向上を阻害し、新規事業への投資や拡大を困難にします。これは、日本経済全体の成長力を低下させる要因となります。
- 社会保障制度の持続可能性への懸念: 少子高齢化による生産年齢人口の減少は、年金や医療といった社会保障制度を支える現役世代の負担増を意味します。人手不足が解消されなければ、この負担はさらに増大し、制度の持続可能性が危ぶまれます。
- 公共サービス・生活インフラの維持困難: 医療、介護、教育、交通、インフラ整備など、私たちの生活に不可欠な公共サービスや生活インフラの担い手が不足することで、サービスの質が低下したり、提供自体が困難になったりする可能性があります。
- 地域社会の衰退: 地方では、人手不足が加速することで企業が撤退し、商店街がシャッター通りとなるなど、地域社会の活力が失われ、衰退の一途をたどる危険性があります。
バスの運転手不足による路線縮小や、飲食店の営業短縮など、生活に密着したサービスへの影響が出始めています。これがさらに進めば、私たちの生活の質は確実に低下し、これまで当たり前に享受できていた利便性が失われることになりかねません。
私たちができること:キャリアコンサルタントとしての提言
この深刻な人手不足の問題に対し、私たちは決して手をこまねいているわけにはいきません。キャリアコンサルタントとして、個人と企業の双方に以下の提言をいたします。
個人は主体的なキャリア形成とスキルアップを、企業は多様な人材の活用と働き方改革を推進することで、人手不足の緩和と持続可能な社会の実現に貢献できます。
【個人ができること:主体的なキャリア形成の推進】
- 市場価値を高めるスキル習得: 変化の激しい時代に対応するためには、常に新しい知識やスキルを学び続ける姿勢が重要です。特に、ITリテラシーやデータ分析能力、コミュニケーション能力といった汎用性の高いスキルは、業種を問わず求められます。リスキリングや学び直しを積極的に行い、自身の市場価値を高めていきましょう。
- 多様な働き方を視野に入れる: 正社員だけでなく、副業、兼業、フリーランスといった多様な働き方を検討することも、キャリアの選択肢を広げる上で有効です。自身のライフスタイルやスキルに合った働き方を探すことで、より充実したキャリアを築ける可能性があります。
- キャリアプランの明確化: 漠然と仕事をするのではなく、数年後、十年後の自分はどうありたいのか、どのようなスキルを身につけたいのかといったキャリアプランを具体的に描くことが大切です。キャリアコンサルタントを積極的に活用し、自身の強みや弱みを客観的に把握し、最適なキャリアパスを一緒に考えていきましょう。
【企業ができること:多様な人材の活用と働き方改革】
- DX・省力化への積極投資: 人手不足を補うためには、AI、RPA、IoTなどのデジタル技術を活用した業務効率化が不可欠です。初期投資はかかりますが、長期的な視点で見れば、生産性向上と人件費抑制に繋がり、企業の競争力を高めます。
- 多様な人材の採用・育成・定着:
- 女性・高齢者の活躍推進: 育児や介護と両立できる柔軟な勤務制度の導入(リモートワーク、短時間勤務など)、キャリア継続を支援する研修制度の充実、アンコンシャスバイアスの払拭など、女性や高齢者が安心して長く働ける環境を整備することが重要です。
- 外国人材の積極的な受け入れと支援: 異文化理解を深めるための研修、日本語教育の支援、生活面でのサポートなど、外国人材が安心して働ける環境を整えることで、新たな労働力として貢献してもらえます。
- 障がい者雇用の促進: 障がいの有無に関わらず、個々の能力を最大限に活かせる職場環境を整備し、多様な人材が活躍できる企業を目指しましょう。
- リスキリング・アップスキリングの推進: 従業員のスキルアップを支援するための研修制度や費用補助を充実させ、時代の変化に対応できる人材を社内で育成していくことが重要です。
- 魅力的な職場環境の構築:
- 適正な賃金水準の維持・向上: 企業収益と連動した賃上げや、成果に応じた評価制度の導入など、従業員が納得感を持って働ける賃金体系を構築することが大切です。
- ワークライフバランスの推進: 長時間労働の是正、有給休暇取得の奨励、フレックスタイム制やリモートワークの導入など、従業員が仕事とプライベートを両立できる働き方を推奨しましょう。
- エンゲージメントの向上: 従業員満足度調査の実施、キャリア面談の実施、社内コミュニケーションの活性化など、従業員が企業に貢献したいと感じるような組織文化を醸成することが、定着率向上につながります。
まとめ:未来への挑戦
日本が抱える人手不足は、一朝一夕に解決できる問題ではありません。しかし、私たち一人ひとりが自身のキャリアに主体的に向き合い、企業が旧来の慣習にとらわれず、積極的に変化を受け入れ、多様な人材が活躍できる社会を構築していくことで、この難局を乗り越えることができると信じています。
私も株式会社主体的なキャリア形成の代表として、福岡を拠点に、個人の皆様のキャリア形成支援、そして企業の皆様の人材戦略コンサルティングを通じて、この人手不足問題の解決に微力ながら貢献してまいります。皆様と共に、より豊かで持続可能な社会を築いていくために、今できることを一つずつ実践していきましょう。
